LASDEC6月号

財団法人 地方自治体情報センター発行
月刊「LASDEC-2004年6月号」 新発田市役所殿の事例が掲載され、弊社次世代電子帳票システムSERAが高く評価されました。

ルポ・電子自治体構築/新発田市
「税務課の年中行事をなくした固定資産税台帳電子化への道」
地方自治情報センター発行「月刊LASDEC」 平成16年6月号に掲載された記事を掲載しています。
なお、 掲載に当たっては、新発田市、地方自治情報センター、執筆者の承諾のもと掲載をしています。

税務課の年中行事をなくした 固定資産税台帳電子化への道

新潟県新発田市
ITジャーナリスト 佃 均

固定資産税台帳の電子化に、コンピュータ・メーカーがサジを投げた。暗号技術を使ったセキュリティ対策、CD化によるスペースの節減、住民の要求にその場での対応など数々の要望をどうクリアするか?―それを解決したのは、県内ベンチャー企業が開発した電子帳票システムだった。
新発田市は新潟市からほぼ北東27km、JR白新線の白いボディに緑のラインが入った3両編成に乗って約20分。思ったより近い。駅前のターミナルには「赤穂義士の一人堀部安兵衛生誕の地」の看板が立ち、「月岡温泉」の案内が掲示されている。ここに9万2000人が住み暮している。そのまま新発田城址(重要文化財の「表門」、お濠の桜などで知られる)に行って見たくなったが、今回はお仕事である。

新発田市役所

 町村合併の歴史そのもの

定例的に新発田市を紹介すると、江戸時代は新発田藩溝口氏の城下町であり、現在、新発田城では国の重要文化財表門と旧二の丸隅櫓に加え、三階櫓と辰巳櫓の復元工事が進められている。このまちの出身者には、堀部安兵衛のほか、大倉財閥の創始者大倉喜八郎やアナーキストとして知られた大杉栄らがいる。
昭和15年に鴻沼村、18年に猿橋村を合併し、第二次大戦後の昭和22年に新発田市として発足した。その後、昭和30年には川東、菅谷など6村、翌年には加治川村、昭和34年に佐々木村を合併し、昨年、平成15年7月に豊浦町を併合している。新発田市が誕生した経緯は町村合併の歴史そのものといっていい。

その新発田市が暗号技術を組み込んだ電子帳票システムで固定資産税台帳を電子化し、過年度台帳の保管・管理、検索などを効率化した、というのが今回のテーマである。だが実をいえば、筆者は「それなら取り立てて新しい取り組みではあるまい」と考えていた。実際取材に応じていただいた総合管理部税務課固定資産税家屋係長の伊藤正仁氏は、「そういわれれば、そうですね」と、まずは肩透かしで一本取った後「ただし、ホストコンピュータと連携しつつ、税務の現場職員が台帳CDを作成できるというのは、コストやセキュリティの観点から大変なメリットなんです。
それに住民から要請があれば、その場で過年度の情報をプリントアウトできますから、対住民サービスであり、かつ“情報公開”という見方もできるでしょう?」と、付け加えた。

新発田市役所資産税担当者

製造中止で代替システムがない

新発田市が固定資産税台帳を光ディスク化したのは平成8年だった。過去5年分のデータを保存しておくには、ホストコンピュータのディスクに余裕がなく、磁気テープで保存していたが、この方法だと適時の処理ができない。
そこで考えたのがスタンドアロン型の光ディスクシステムだったがそのリース契約が切れる時期が間近に迫っていた。平成13年のことである。
「最初は、それまで使っていた光ディスクシステムのメーカーを継続するつもりでいたのです。同じメーカーの製品ならデータの移行が容易でしょうから。ところが、そのメーカーが持ってくる提案は、どうも私たちの要望とシックリしなかったし、積極的じゃなかったんです」
既存システムのメーカー側には、このシステムを「製造中止にしよう」という事情があった。新発田市はシステムの代替品がなくなる、という問題に直面することになった。他社のシステムにリプレースせざるを得ない。
「それで、どのようなシステムがいいか、複数のコンピュータメーカーや情報サービス会社に提案をしてもらいました。

このとき、伊藤氏が示した要望は
・できるだけコストを抑えたい。・情報を照会し、印刷する時間を短縮したい。・ホストコンピュータのデータを変換する手間を簡素化したい。――などだった。
プリントアウトに最大7分もかかっていた。しかもデータが増えると、1ページ当たりいくら、というかたちで追加費用が発生した。
――これでは仕事にならない。
――予算が確定できない。
という声が多かった。
また、ホストコンピュータのデータを内部で処理したい、という要望もあった。外部に持ち出してデータ変換を行うことは、セキュリティの観点から、できるだけ避けたかった。
「コストというのは、本体の価格だけではありません。運用の手間、保守、データ変換に要する追加費用など、トータルコストを意味していました」

EUC/TCO/SLCPという課題

伊藤氏がコンピュータメーカーや大手の情報サービス会社に示した要求は、「EUC(End User Computing)」
「TCO(Total Cost Ownership)」「SLCP(System Lifecycle Process)」の最適化というテーマだった。
伊藤氏はITの専門家ではない。平成13年当時は税務課に配属されて5年目の職員だったが、利用現場から次期システムの課題を見抜いていたことになる。
「なかなかコレというものがありませんでね。リース切れのタイムリミットは近づいてくるのに、次期システムの目途がつかない。困ったことになった、と思っていたとき、ある雑誌に柏崎市の事例を紹介する記事が載っていました」
柏崎市も同じ新潟県である。調べるとホストコンピュータも同じメーカーのマシンだった。システムを作ったのは柏崎市に本社を構える「クリプトソフトウェア」という無名のソフト会社で、しかも有限会社だった。
「柏崎市で稼働しているのなら見学する価値がある、と考えたのです」
 早速、柏崎市に連絡を取り、見学するとともにクリプトソフトウェアの社長にも会った。
社長というのは地元の信用金庫で電算部門を担当し、市の肝いりで設立された「柏崎情報開発学院」の開設当初から関わり、長く専任講師を務めた人物だった。それだけでなく、柏崎市の基幹システムにも参画したスペシャリストだったのだ。行政の現場を熟知しているスペシャリストが開発した新しいコンセプトに基づく電子帳票システムであることが、伊藤氏の気持ちを動かした。
新しいコンセプトというのは、既存の帳票をそのまま電子化する、という発想ではない。インターネット(TCP/IP、ブラウザ)に対応し、使いやすく、多くの部門・業務に適用できる拡張性を備え、かつセキュリティを確保するということだった。紙の帳票ではできない検索性、機能性、安全性を備えた電子自治体システムにフィットしたシステムである。

要望を伝えると、「できますよ」
あっけない返事がきた。コンピュータメーカーや大手の情報サービス会社ができないのに、新潟県内の小さなソフト会社が自信をもって「任せてください」と言ったことも驚きだった。
「いやぁ、それができちゃったんですよ。その社長さんに来ていただいて、システムを見てもらいました。コンピュータメーカーや大手の情報サービス会社が5~6人のチームでやってきて、大変な作業をするのが普通なんですが、その会社は社長さんが1人でやってきて、簡単にプロトタイプを作ってしまった」
専門用語で表現すると、システム開発におけるプロトタイピング技法である。システムを使う人の要望を聞きながら帳票をデザインし、実際に動かしてみせる。不都合があればその場で直す。それが簡単にできるということは、エンドユーザーが使いこなせる、ということでもある。

システム導入後

住民の要求にその場で対応

導入したシステムの名は「次世代電子帳票システム セキュアアーカイバSERA」といった。
新発田市では「SERA」と呼んでいる。平成13年にシステムは無事、リプレースを完了し、
・「市県民税課税台帳」(9年分、27万ページ)
・「市県民税課税補助簿」(9年分、27万ページ)
・「土地家屋名寄帳」(6年分、30万ページ)
・「固定資産税賦課台帳」(3年分、1万2000ページ)
・「国保税課税台帳(資格)」(6年分、6万ページ)
・「収納簿」(9年分、88万2000ページ)
・「家屋課税(補充)台帳」(6年分、3万ページ)
・「償却資産種類別明細書」(11年分、2万2000ページ)
・「償却資産課税台帳(申告書)」(11年分、2万2000ページ)
が直径12cmのCD数枚に記録され、キャビネットに納められている。職員は必要に応じてCDを取り出し、登録済みのパソコンで照会する。その場合、正規のユーザーIDとパスワードを入力しない限り、データを読むことはできない。

伊藤氏

システムの導入により棚の書類が引出し一つに収まった

「仮に外部に持ち出されても、SERAサーバなければ暗号を解除することができません。その点でも安心ですよね」
膨大な紙の台帳がコンパクトなCDに置き換わった。
「以前は年度替わりのたびに、職員総出でコンピュータ帳票をファイルしていた。
頭の痛かった税務課の“年中行事”がなくなりました」という。
台帳を並べていた書庫のスペースをオフィス賃貸料に換算すると、それだけでたいへんなコスト削減になる。おまけに紙資源の消費抑制にもつながる。
市役所2階の税務課にはカウンターにディスプレーが置かれ、訪問する市民の申請にその場で対応することができるようになっている。
「過年度の固定資産税台帳が必要になるのは、年に何千件もあるわけではありません。大きな予算を投入できないのですが、行政事務の上では欠かせません。住民の情報をいかに効率よく預かり、お待たせせずに提供できるかが、電子化のポイントじゃないでしょうか」

コーディネートがポイント

現在は円滑に運用されているが、新システムに切り替えるに当たって伊藤氏は部内のコンセンサス、情報システム部門との打合せ、既存システムのメーカーとの調整などに走り回らなければならなかった。並行して移行計画の策定、実際にシステムを使う職員の研修も行った。
加えて、市町村合併という大きなテーマがあった。税務課が新システムに移行した前後は、合併問題が具体化しつつあるときだった。
「目の前には平成15年7月豊浦町との合併を控えていました」
このため伊藤氏は豊浦町の税務課職員とも綿密な打合せを続けていった。さらにその後に合併が予定されている加治川村、紫雲寺町などとの合併協議会にも参加し、合併後、円滑な電子化を実現するプロセスを検討している。

地方自治体にとって、現行の電子行政システムをいかに町村合併に備えるかが大きなテーマになっているが、それについて伊藤氏は次のように言う。
「技術的なことより、組織運営上のコーディネートが重要だと感じています」
 これは、まさに実感に違いない。
「8年も同じ部署にいる私でさえも、町村合併を円滑に進める上で役に立っているのかな、なんて思いますよ」
伊藤氏は冗談まじりに笑った。

開発会社とともに機能を改善

システム導入の効果を、伊藤氏は次のようにレポートしている。
・既導入システムのデータ移行が可能であること。
・ホストコンピュータからのデータ変換が容易であり、かつ市役所内部でその作業が行えること(課税データを外部に 出さないで済むということは、非常に大きなメリットである。セキュリティの面でもランニングコストの面でも)。
・機能がシンプルであり、誰でも容易に操作できること。
・データは高度に暗号化されており、セキュリティが確立されていること。
・費用が安く、次項の追加費用を含め、他社と比べ非常に低額で済むこと。
・追加費用が発生しないこと。セキュアアーカイバSERAは帳票レイアウト1件ごとにのみ費用が発生する。したがって、追加費用が発生しない。
・検索、印刷が速い。
・印刷がきれい。

新しいシステムは“いいことづくめ”だったように思えるが、改良の余地は少なくなかった。例えば「ページめくくり機能」がそれだ。何ページかにまたがる情報を、そのたびに照会するのでなく、あたかも紙の台帳を操っているようにマウスのクリックで次ページを表示させたい。ユーザーからすれば当然の要望だった。
「クリプトさんにお願いして、その機能を追加してもらいました」
クリプトソフトウェアにとっても、機能改善につながる。
 「複数検索、付箋機能などがあれば、なおいいと思います。機能がシンプルであるというメリットを活かして、どこまでユーザーの要求を実現するかがパッケージ製品のポイントです。基本機能とカスタマイズを切り分けることが大切なんでしょうね」
これは次バージョンの改良項目に役立つはずだ。
 なるほど、コンピュータメーカーや大手の情報サービス会社には、確かに“安心感”がある。だが安心感のあるシステム構築だけでは、使いやすく効果的な電子自治体は実現しない。この点を利用者が評価する目を持つことが、住民サービスの向上に結び付き、ひいては地域のソフト産業の育成につながるということなのだろう。